この度、異世界アントワールへ来訪する事となった地球人、佐々木七海は混乱していた。
異世界と思しき場所で目が覚めたら、目の前に天使がいた。
「………… 」
何を言っているのかわからないだろうがありのままを言っている。
目覚めたら、目の前に、天使が居たのだ。しかも、天使の細い腕に抱かれた状態というご褒美付きで。
年齢は十歳と少し……いや、背の低い中学生といわれてもしっくり来る。
と、言うのも柔らかそうな頬っぺたと身長……それから少年特有の手脚の細さを持つ目の前の天使は、その見た目に反してとても理知的な眼差しで七海を見つめていて――七海は「大人になったらさぞかしイケメンに成長するのだろうな 」とその瞳を見つめ返した。
艶やかでサラサラの短い黒髪の間から覗く意志の強そうな瞳、形の良い眉毛はキリリとしていて、引き結ばれた唇が開いた。
しかしその言葉は期待したような舌足らずさはなく、声質は高めであるものの、落ち着いた大人の言葉だった。
「イスターレ王国へようこそ、『落ち人 様 』……歓迎致します――と、申し上げたい所なのですが……一つだけお聞きしたい 」
何度も言うが、現在七海は天使(少年)の腕に支えられて横たわっている。
気付いたら天界なる場所にいて、自分は大往生したと説明を受けたものの、思い出せる記憶は二十代そこそこの時の趣味の事くらいで、死んだと言う実感も無いまま女神から『オイシイ話 』を持ちかけられて、二つ返事でオーケーした所までは覚えている。
現実世界ではとてもじゃないけど叶えられなかった七海の秘めたる大欲求を思う存分ぶつけて良いと言う世界へ転移?転生?させられた筈である。
女神は言った。
次に目が覚めた時、目の前に居る人間に七海の一生涯分溜まりに溜まった欲望をぶつけて良いのだと――
「『落ち人様』、なぜ私のもとになど来たのです。私のこの身は呪われている、何世代も前に魔族との戦争で王家が掛けられた呪いによって『イスターレ王国第一王子』である私の身は、幼子の姿のまま成長する事叶わないのですよ? 」
ピクリ……と、それまでただ目の前の『王子 』をジッと見つめていた七海の表情が微かに動いた。
「『落ち人様』である貴女はすぐにでもこのアントワールの『ツガイ 』と生殖行為に及ばなければ、魔力回路閉鎖症を発症してしまうというのに―― 」
「え、王子様ってば精通はまだなんですか? 」
ビシッ――と、空気が固まる音がした。
「せ……い、つう……? 」
「精子が出るか出ないかって事です、具体的に言うと――ふんぐっ?! 」
七海は天使に口を塞がれた。
彼の膝に背中を支えられたまま、勢いよく片手で。
筒を作った七海の右手が虚しく宙に浮いているが、天使は意識的に視界に入れないようにしている様子だった。
「………… 」
「………… 」
貼り付けたような笑顔のまま、七海の口を塞ぎ続ける天使を七海は黙って見つめ続けた。
「……具体的に言わなくても結構です、落ち人様 」
天使は念を押すようにそう言うと、七海の口から手を離した。
「そうです? 」
(――だから筒にした右手をニギニギするのをやめろ! )
笑顔の天使は初対面の落ち人を早くも怒鳴りつけそうになりながらも、その身に似合わず長年培ってきた理性と言う名の檻に己の荒ぶる気持ちを閉じ込めた――
「……そう、私が言いたいのは……このような身体では貴女に悦びを与える事も叶わな―― 」
「え? 今絶賛心の中で『やりぃこの天使が女神様の話していた運命のツガイってやつ?! ひゃっほうありがとう女神様!万歳合法ショタ!こんな美少年眺めてるだけでもご飯三杯はいけるぜイエイ! 』とか喜んでた所なんですけど……? 」
「……てめぇ、稚児趣味かよ変態が 」
――が、落ち人は少年の檻を平気で蹴破ってきたので思わず地を這うような声で吐き捨てるように呟いた。
「え……? 」
常人ならば時が凍りつくような冷たい声にも、少年の腕の中で落ち人はキョトンとすると――瞳を興奮に潤ませて身悶えだした。
「そんな……蔑んだような冷たい目で少年に見下ろされる日が来るなんて……あっ……はぁ……ハァハァ……女神様最高か、一生信仰します畜生め……なんてご褒美、なんて幸――ああんッ 」
――ゴッ……
突然顔をほんのりピンク色に染めて悶え出した落ち人を、少年はポイッと放った。
なんか尋常ならざるサブイボが立ったので。
一体誰がそんな少年を誰が責められようか。
一方、七海は後頭部をしたたかに打ち付けたけれども幸せそうな表情で悶え続けている。
「……おい、落ち人のツガイとなる者はこのアントワールで一番の相性であると聞いているんだが? 」
「え? ああ、なんか女神様が言ってましたね? 性格も性癖もお互いの全てを受け止め合うことが出来るって説明を聞いて異世界行きを二つ返事でオッケーしました! よろしくお願いします! 」
「――ッよろしくされてたまるか!この変態があぁぁああ!! 」
「アァァァアア――ン!! 」
――――
――
――――――――――――――
【異世界行ったら大賢者様と即エッチ!】
里美さんが淡々としたアクティブ変態だったのに対して、七海ちゃんは変態方向にアクティブなドMでした。
大賢者様はとある理由で半幽閉生活中です。
次はイスターレのお姫様のお話です

コメントを残す