4.狼獣人さんが開き直りました※

一方ジークヴァルトは固まっていた。

 この理解不能の生き物を前に、実は何度かこういったことになっている。

 しかし、そこは一流と呼ばれる冒険者としての矜持が彼にそれを許さないので直ぐに復活させてはそれを気取られないように取り繕っていたのだ。

 しかし、この異世界の女と言うものは、なかなかに手ごわく彼をもってしても悪戦苦闘させている。

「…………おい」

「…………うぅ……ひっく……う――っ」

 ジークヴァルトは、困っていた。

 彼は生まれてこの方、女のご機嫌伺いなどしたことがない。

 状況を整理してみるに、このおかしな女は、ジークヴァルトの獣の姿に対し嫌悪感などまるでなく、むしろ希美子はジークヴァルトの身を自由に触る事が叶わないという状況に憤っているらしい事を何となく察した。

 おかしな女だ。

 ジークヴァルトは、落ち人と言うものを見る事が初めてではなかったので、彼女達が自分たちの持つ常識とは違う世界に生きて来た事を知っている。

 それにしたってこの女はおかしい。

 そもそもこの世界の人族にしたって、獣人に対してあからさまな嫌悪感を示すものが大半である。

 しかし、ジークヴァルトが思考の波に沈んだのは一瞬の事、冒険者になってからというもの一瞬一瞬が生死を分けるそんな世界に生きてきたのだ。

 そんな世界で生き抜き、今や一流とも言われている彼にとって、思考の波に飲まれるなんて事はあってはならないし、無いことであった。

「……もふもふ……?」

 そして、希美子の目の前にモフモフが差し出された。

 ジークヴァルトのモフモフの手の甲である。

 鋭い爪を内側に隠し、手の甲だけを希美子の鼻先に近づけた。

 その事にうっとりと目を細めた希美子は、今だ痺れる身体を押してゆっくりと手を伸ばすと、ジークヴァルトの手を取ってその甲を自分の額に押し付けた。

「モフモフだ」

 蕩けるような、花が咲くような笑顔を見せた希美子だったが、一方のジークヴァルトのその行動は、まるで大型犬が小動物に対し恐々と触れるようなものであった。

 それに対し、小動物は自分が傷つけられることがあるかもしれないなど、少しも疑っていない。

 そんなふうに、無邪気に擦り寄ってみせたのである。

 しかも、目の前の小動物は、あろうことかジークヴァルトがわざわざ内側に隠した爪を、探るように指先でいじってきた。

「おい、危ないからよせ」

「……危なくないよ」

 希美子はそう言ってぶすくれたが、もしかしたらジークヴァルトは嫌だったのかもしれないと思い、積極的にその場所を弄るのはやめた。

「どうしたいんだ、お前は」

「心ゆくまでモフモフを堪能しながら抱かれたいです」

 即答で返された。

「…………」

 ジークヴァルトはため息を吐いた、だってそうだろう。

 この自分が――大概好き勝手に生きてきたこの自分が、あれだけ気を使ってやったと言うのに、全てが杞憂だったと言うのだから。

「お前が、この俺の毛並みを絨毯か何かと勘違いしている事はわか……」

「絨毯な訳あるかぁ?!!獣人様の毛並みをそこらの絨毯やクッションなんかと一緒にしないでいただけますかねぇ?!!」

 ――もう、なんなのだ。一体。

 ジークヴァルトは呆れを隠そうともせずに、目の前の理解不能な生き物を見つめた。

 すると、目の前の生き物はハッとした表情になり……

「ジークって、獣化した時の方が目付き悪く無いんだね?……超萌える……ふふふふふっ」

 と、のたまった。

「……お前、相当この俺にブチ犯されてぇと見えるな?」

「ええ?!」

 希美子は驚くような声を上げたが、その表情は明らかに期待に満ちていた。

「…………」

 ジークヴァルトは、なんかどっと疲れた。

 狼と化したその顔に、明らかな倦怠感を滲ませた彼はきっと何も悪くは無いだろう。

 そう、悪いのは彼ではない。

 地球の日本というHENTAI大国から選りすぐりの変態を『ツガイ』として送り込んで来た女神が悪い。

 もちろん、目の前の変態も。

「……おい、身体はどうだ?」

「え?……ああ、さっきよりはマシになってきたけどまだ少し痺れが残ってる……かな?」

「そうか」とジークヴァルトは言うと、うつ伏せになっていた希美子の腰をおもむろに持ち上げた。

「え?!え、え?」

 力が入らないので、胸はベッドに付けたまま、腰だけを上げさせられている状況に希美子は目を白黒させた。

「この方が、お前は好きだろう?」

「え?え?え?」

 ジークヴァルトの声に明らかな色が宿る。

 希美子に背中から覆い被さると、狼の口を彼女の耳元に寄せて唸るように囁いた。

「獣らしく、後ろから犯してやる」

「――っ!!!」

 ズッ……と、明らかに先ほどよりも大きな質量のモノが希美子の中心にメリメリと押し挿ってきた。

 しかし、十分以上に解されてしまった希美子の其処は、悦んで迎え入れている。

 しかもそれを補助するつもりか、ジークヴァルトの獣の指、その毛先が希美子の豆をくすぐりだした。

「――――っ――つッ!!」

 身体が動かなかった筈の希美子の腰が勝手にガクガクと震えだす。

 再び訪れた強烈な快楽の海に――沈められた。

 ゆっくりと確実に希美子の中心を押し開いていくその熱が、ジークヴァルトのモノで、彼の、本当の姿で、他でもない獣の滾りであると、そう――希美子の混乱した頭の中は彼の与える快楽で一杯になる。

(――気持ちいい……気持ちいい気持ちいい気持ちいい)

「じ……く、じぃく……っひゃあんっ?!」

 背中を、ジークヴァルトの長い獣の舌でべろりと舐め上げられて希美子の身体が跳ね上がった。

 希美子の豆を弄ぶ毛先はとうに彼女の愛液で濡れ、その柔らかな毛先はくちゅくちゅと泡を立て、音を出しながら断続的に快楽を与えてきた。

 中心には希美子が経験したこともない質量のモノが希美子の穴をこじ開けるように進んでくるし、無防備な背中は湿り気のある生温かい舌に責められ続けるし、ジークヴァルトの滾りの先が希美子の最奥に到達し――降りていた子宮口を押し戻すようにグググっと進んできて――

 希美子は悲鳴のような声を上げてイッた。

「っんあっ……はあっ……はぁ……は……」

 希美子がイッている間、ジークヴァルトは彼女を背後から抱き竦め、宥めるように獣の鼻で彼女の頰を撫で続ける。

 お陰で希美子は絶頂の余韻をこれでもかと味わい続けた。

 ぴくっ……ぴくっ……と震える希美子の身体を眺めながら、ジークヴァルトの獣の瞳には情欲の熱が篭り始める。

「じ……く、ごめ……また……」

 私だけ――言い終わる前に意図を察したジークヴァルトは律動を開始した。

 びっちりと嵌められた質量に、希美子の内壁は全て持っていかれる。

 ジークヴァルトの滾りを追うように、内肉が引っ張られては戻され、引っ張られては押し戻されるを繰り返しされて、早々に希美子はその圧倒的な行為に陥落した。

 なすがまま、させるがまま、与えられるがままに揺さぶられ、堕ちていく。

 ジークヴァルトの獣の毛を愛液ではしたなく濡らしては、気付けば潮を吹き出して。

「あ――ァ、ア――――……」

 もはや意味のある言葉など出てこなかった。

 人間の鳴き声とは、本来こんなものかと思わせるような呻くような嬌声を上げ続ける。

 永遠に続くかと思われたその行為に、終止符が打たれた時、熱い飛沫が希美子の最奥に勢いよく放たれ、希美子は目を剥いた。

 視界いっぱいに火花が散っている。

「っ――!!ああああああっ!!」

 ゴポリ、と、繋がりの入り口付近に生まれた質量が何なのか知る前に、希美子は再び意識を手放した。

 ――

 ――――

 ――――――

「はっ……はあっ……はあっ……はっ……」

 気を失った希美子の上で、肩で息をしているのは一流冒険者であり、狼獣人のジークヴァルトである。

 彼が息を乱した事など、いつぶりだろうか。

 女を抱く時は愚か、ドラゴンの討伐ですらこんなふうになった事は無い。

「……くそっ」

 こんなつもりは無かった、こんな事になるなど思いもしなかった。

 ギルド長に呼び出され、指名依頼を受けた帰り――突然の魔力反応に警戒したが直ぐに異常事態と理解した。

 ――他でも無い、この俺に『落ち人』をくれやがるとは……女神もいい趣味をしている。

 目の前に現れた象牙色の肌を持つ女を見て、ジークヴァルトがまず思ったのはそれだ。

 ――『あなたの目の前に落ち人が現れたのなら、まずは祝福の口付けを』

 神殿の人間達が、こちらの耳にタコが出来る事も構わず吹聴している言葉が頭を過るもジークヴァルトはその場を動かなかった。

 彼の――愚かな兄が死んだ時、決めたのだ。

 もし、落ち人が自分の元へ来るような事があれば、その時は――

 しかし、その時、目の前の女が苦しみだすとジークヴァルトの鋼の誓いすら脆く崩れ去った。

「うっ……くぅ……かはっ!ハッ、ハッ、ハッ――」

 気付けば身体が先に動いていたのだ。

 目の前の、儚い生き物が苦しむ様を――ただ眺めている事が出来なかったのだ。

(俺は――何を……)

 ジークヴァルトに口付けられた女が、縋り付くように舌を伸ばしてくる。

(――ちっ)

 ジークヴァルトは仕方なくその舌を絡め取り、己の魔力の流れに注意しながら、ゆっくりと注ぎ込むように女へ己の魔力を送る。

 コレをしてしまえば、魔力回路が形成されてしまう。

 一度作られてしまったのなら、後戻りはできない。

 この女に待っているのは、獣である自分に犯され性を貪り生きるか――兄の『落ち人』のように苦しみ抜いて死ぬか、それしか無くなるというのに。

 どれほど時間、そうしていただろうか。

 ジークヴァルトの想いとは裏腹に、『落ち人』との口付けは甘く、今まで飲んだどんな酒よりも彼を酔わせた。

(クソが……)

 その時、ずっとジークヴァルトが様子を見ていた女の瞳に正気が戻っていくのに気付き――ジークヴァルトは彼女を突き飛ばした。

(――俺……俺は――クソッ!!)

 彼は使い慣れた剣を抜いて女に突き付ける。

「おい、女」

「――え?」

 女は状況が飲み込めないのか、間抜けな顔でジークヴァルトを見た。

(――――ちっ!)

 その瞳と目が合った時、ジークヴァルトの腹の中がザワついて、自分に移った女の残り香にどうしようもない苛立ちを覚えた。

 ――認めない、俺は……『落ち人』に狂ったりはしない。

 静かに、冷静に、心を凍りつかせる。

 そしてジークヴァルトは言った。

「今すぐ俺に首を刎ねられて死ぬか、狼にブチ犯されるか、時間をかけてこの世界の魔力に蝕まれて野垂れ死ぬか、好きなのを選べ」