異世界アントワールには、今宵も神に愛された者の下に落ち人が贈られる。
落ち人――愛されし者の為、神に選ばれた運命のツガイ。
彼らは、アントワールに身体を定着させる為の契りを交わさなければ死ぬことになる。
これはアントワールの人間ならば、人族獣人魔人問わず誰でも知っている常識だった。
落ち人達は、はじめ誰しも夢かうつつかと戸惑うものの一度ツガえば受け入れざるを得ない。
その抗い難い愛しさに、快楽に落ちていく、だから『落ち人』というのだと誰かが言った。
神の定めた運命からは逃れられない、落ちればもう抜け出す事などできない。
それが神に選ばれた者の、ツガイになるという事――
ここはピエルネ国最大の農村地帯、その中心に位置するリオット村。
長閑な田園風景が広がるこの村唯一の神殿に、一人の悩める聖女がおりました。
透き通るような白い肌と、祖父譲りの銀色の髪は真夏の強い日差しを受けるとたまに七色に見えるらしく、農村の子ども達に「せいじょさまっ!せいじょさまだ!」「しってる!えほんのおひめさま!」と、その時期だけは子どもたちにも持て囃されます。
「あー……出会いが欲しい……」
辺り一面葡萄畑のど真ん中、小さな小さな神殿の聖女様は……暇でした。
一見お人形さんと見間違う程の美しさを誇る彼女だけれど、美少女と言うには歳が行き過ぎ、逆に美女というには色気が足りません。うん、たりない。
「ホッホ、聖女は今日も読書ですかな?」
「あ、神殿長おはよーございます」
行儀悪くテーブルへ突っ伏していた元気の無い聖女に、声をかけたのはこの神殿唯一の男性――御歳78歳の爺だった。
そして唯一の女性は聖女、この顔だけは綺麗な残念っ子である。
「聖女、貴女がこの国へ――このリオット村に来てくれて随分と作物の出来が良くなったと皆が申しておりまたぞ?何か不足があればいつでも申し付けて欲しいとの事じゃ」
「若い未婚の男が足りないです」
「ホッホッホッ」
「彼氏が欲しいです、贅沢言わないから旦那様が欲しいです」
「ホッホッホッ」
「少し言うなら、筋肉がガッチリしてて精悍な私なんか片手で持ち上げられちゃいそうな屈強な男が欲しいです」
「ホッホッホッ」
「もっと言うなら、アレの時は私に攻めさせてくれて感度が良くて色々させてくれてなんでも言う事聞いてくれる調教のしがいがある男がいいです!」
「ホッホッホッ……聖女、新刊じゃ」
――ガタッ
段々とヒートアップしてきて、聞くだけ無駄な要求をはじめた聖女に神殿長が差し出したのは、一冊の本でした。
それに気付くや否や聖女はカッと目を見開いてシュバッと音が聞こえるほどの速さで神殿長が差し出した本を――奪い取った。
「ひゃっはー!ピエルネの至宝ベルティーユ様の新刊ですね?!待ってましたー!!お勉強してきまーす!!」
……聖女は光の速さで二階の自室へ駆け上がって行った。
「……許すんじゃ聖女……全てはこの国に落ち人様が頂けないからなのじゃ……」
この世界――アントワールは、女神様の祝福の化身と呼ばれる『落ち人様』という異界から遣わされた現人神にも等しい存在が各地で確認されている。
女神セレスの強い祝福を持つ『落ち人』は、その存在だけで国を富ませると言われてきた。
『落ち人』の居る街は、災害知らず。
『落ち人』の居る領地は、飢餓知らず。
『落ち人』の居る国は――
土は肥え、太陽に愛され、恵の雨は優しく、精霊の祝福を得る。
しかし此処、ピエルネ国は数十年前の革命で王政が廃止されて以降――殆ど落ち人様が頂けなくなってしまったのだ。
五年前に、最後の落ち人様が亡くなったその日からこの国に変化が起きはじめた。
作物の出来は年々悪くなり、時には大地が揺れ、大量に降り続ける雨は山を崩した。
このままでは、このピエルネの地はかつての魔人――魔族領のようになってしまうのではないかと囁かれはじめていた。
そんな折、人族の国々に於いて落ち人の恩恵を一身に受けると言われるイスターレ王国の宝石――レイアの神殿から神殿長の孫娘である、『聖女』が遣わされたのだった。
祖父譲りの美貌と、『落ち人』の祖母をもつ『聖女』は『落ち人』の孫である。
稀に、落ち人の血縁の中に落ち人と同じ類の加護――『セレスの加護』を持つものが生まれる事があると言う。
彼女、オリエンヌは、その『稀』の者らしかった。
オリエンヌに自覚は無かったが、実際彼女がこの神殿に来てからというもの、災害らしい災害も無く、農村の収穫量は伸びてはいるようなので決して眉唾と言うことでも無かったのだなと、オリエンヌは何処か他人事のように考えていた。
何故、彼女がこのリオット村に来る事になったのか……それは――
『え?落ち人の血縁からピエルネ国の移住者を募ってる?!神殿関係者だと都合が良い?!行きます行きます!!ひゃっはー!ピエルネの作家さんの新刊がリアルタイムで読めるようになるじゃないですかヤダー!え、、配属先はリオット村?!騎士ボクの聖地じゃないですか行く行くぅー!!』
……聖女が、腐っていたからだ。
「はっ……ハァ、あんっンッ……」
聖女は今神殿の2階にあるや自室で本を片手にベッドに横になり、白い聖女服のスカートを捲り上げて脚を開くと、本を持っていない方の手で唸るような音を上げる張り型を中心に深く突き刺し抽送していた。
――――――――――――――
騎士団長アダンは信じられなかった、自分を慕ってくれていると思っていた副長ラファエルがこんな事をするなど――
「ピオルネの英雄も形無しですね、全然力が入らないでしょう?」
「やめろ!こんな事――」
「神がお赦しにならないと?ならば今は神に助けを求めてみては……?私は貴方を抱けるなら神を敵に回す覚悟がありますよ」
副長ラファエルは媚薬によって身体の自由が利かないアダンの服を脱がしていく――
――――――――――――――――
オリエンヌは美しい銀色の髪を頰に貼り付け苦しげに眉間に皺を寄せた。
濡れたような唇から熱い吐息が漏れ出す。
――――――――――――――――
アダンの厚い胸板にラファエルの骨ばった指先が滑り、アダンは思わず呻き声を上げた。
「声、我慢しないで下さいよ」
ちゅ――胸の飾りに吸い付くとラファエルの望み通りアダンが鳴いた。
ラファエルはそのまま唇を滑らせていく、既に限界まで立ち上がり硬くなったアダンのソレが期待に震えていた。
ラファエルはその美しい顔を赤黒いソレに近づけ、愛おしいと言わんばかりにキスをして頬擦りをはじめた。
「ああ、団長……もう涎が垂れてますよ?」
「ラファエル貴様っ――んあっ」
ラファエルはアダンのそれを口に含むと好きに舐めしゃぶる。
こんな事は許させる筈はない、男の口の中が、こんなに悦い訳が無い。
――――――――――――――――
「あっ、はっ……あッ……んんっ」
オリエンヌはアダンの痴態を想像しながら頰を上気させ、張り型の魔道具に魔力を流しその振動と回転を早めていく。
――――――――――――――――
ラファエルはアダンの脚を抱えて二つに割るとその中心の窄まりに口付けを落とした。
アダンは慄く、婦人たちに甘い言葉を紡ぐその唇が自分の不浄に口付ける様に、震える程の興奮を覚えてしまった自分自身に――
「ふふ、また……硬くなってきましたね?さっき私の口に出したばかりなのに、いけない人だ」
「――ああっ!」
アダンは口付けられただけでも十分ショックであったのに、あろう事かラファエルはその窄まりを舐め出した。皺の一つ一つを確認するかの様に、もしくはなだめるように尻の割れ目を下から上へ何度も舐め回す。
「やめっ……やめろ、汚い……」
「汚いでは無く、気持ち良いのでしょう?」
「ッ――」
ラファエルに図星を指されたアダンは、最後の理性を振り絞って彼に押さえつけられた脚を動かして彼から逃れようとする。しかし筋肉に覆われた太くて重いアダンの脚を、ラファエルの逞しい腕が押さえつけて逃がしてくれない。
――――――――――――――――
「あっあっ……アダン様、ラファエル、さまぁっ――」
オリエンヌは既に大分興奮していた、早くその窄まりを解してとろとろに蕩けたアダン様の中に、ラファエルの逞しい雄を挿れて激しく揺さぶってやって欲しい。
きっとアダンは最初は怖がるだろうが、すぐに快楽の虜となってラファエルを欲しがり縋り善がるのだろう――
「んあああ――ッ」
オリエンヌはその想像だけで一度イッた。
「……はっ……はあ……ふう――」
オリエンヌは張り型の魔力を抜いて、余韻に浸りながら緩く抽送を続ける。
今回の新作もイイ感じだ。なかなか萌える。
ガチムチ騎士同士というのがまたイイ。
これからどうなるのだろうか、アダンはノンケっぽいから快楽落ちからの……かも知れないが直ぐには心を許さないだろう。他の騎士に輪姦されるシーンがあってもいい、きっとラファエルとの違いに気付く。彼には愛があったという事に――
「あっああんっ!!」
いつの間にか抽送を早くしていたオリエンヌは、ぴゅぴゅっと潮を噴いてまたイってしまった。
「はぁ……はぁ……」
さすがに張り型を抜いて洗浄魔法をかける。
オリエンヌから抜かれた張り型は……端的に言って――随分と可愛げ無い、グロテスクでリアルな張り型だった。
「やっぱり、イスターレの伝説『騎士団長クリストハルト様モデル』はなかなか悦いですね。私の処女を捧げただけあります。まあ、ナマモノじゃ無いので私はまだ処女のつもりですけど」
だがしかし膜は無い。残念処女も良いところだ。
さて、このまま眠ってしまおうか。
そう思った時、オリエンヌは自分の部屋の一角に魔力が集まる気配を感じて瞬時に警戒態勢を取った。
ガバリと起き上がりベッドの上で結界魔法を展開して構えを取った。ちなみに後ろから見ると尻は丸出し状態だったので少し間抜けだが仕方ない、緊急事態なので。
「え……でも、この感じは……」
神殿の祭事の際に感じる女神の力の収束に近いとオリエンヌは思った。
「まさか……」
オリエンヌはコレと同じ現象を祖父から聞いた事がある。
祖父の妻――『落ち人』が降臨なさる時の現象と同じだ。
そして光の粒はやがて人の形を紡ぎ出し――光の粒がその輝きを失った時、一人の屈強な成人男性が姿を現した。
年齢は20代後半、オリエンヌよりもずっと年上だしこの世界では結婚していたっておかしくない年頃だ。
意思の強そうな眉毛と薄めの唇。頭には白い布が巻かれているが後ろ髪は苅り上げられていて、その色は黒だとわかった。
上着は肩まで捲り上げられており、がっしりとした逞しい腕が丸見えだ。
シャツの上からでもわかる分厚い胸板は、先ほどオリエンヌが想像していたアダンを思わせる。
「なっ……なっ……なっ……」
オリエンヌはワナワナと震えだす。
落ち人だ。まごう事無き落ち人だ。
女の身のオリエンヌの元へ『落ち人』様が遣わされてしまった。
「うおおおおおっよっしゃああああっ!!!女神様っありがとおおおおおっ!!!」
オリエンヌはイスターレの神殿にいた頃より、女神様への祈りの時間は決まって願っていた。
『女神様、どうか私の元へ童貞で感度が良くて尻穴弄っても怒らない屈強な男性落ち人を授けてください!』
と、祈っていた。残念聖女ここに極まれり、である。
オリエンヌは感動のあまり忘れている事があった。落ち人はこの世界に来て直ぐには魔力回路を持たず、放っておくと魔力当たりで呼吸ができずに死んでしまうという事を。
横になっていた男性落ち人は、苦しみのあまり目を覚ました。
「ぐっ……な?!く、苦し……ガッ?!」
「う?!うわああああっだめ!死なないでまって?!!」
苦しみ出した男性にオリエンヌは駆け寄ると、念の為身体強化の魔法を張り巡らせつつ男の胸ぐらを掴んで此方へ向かせると、迷う事なく口付けた。
「んんん?!!」
男の身体が強張り、見開かれた黒い瞳がオリエンヌを捉えた。
オリエンヌは舌を差し入れ男のソレを絡め取ると、ゆっくりと注意深く自分の魔力を注いでいく。
この始めの口付けで、魔力回路が作られると言われている。回路さえ出来れば、それが安定するまで定期的に魔力を与えて循環させてやれば、落ち人はこの世界の魔力に馴染みこの世界の人間として生きて行く事が可能となるのだ。
男は突然の事に驚き過ぎているのか、されるがままとなっている。
その黒い瞳に映る聖女が美し過ぎたというのもあるかもしれない……中身は残念聖女だが。
これから嫌でもソレを知る事になるであろう彼には同情を禁じ得ない。