35.落ち人さんと強い狼獣人さん※

「あの、ジ……」

「黙ってろ、余裕がねぇ」

 ピシャリと言われて希美子は黙ったが、耳元に彼の荒い呼吸が感じられて一気に劣情が掻き立てられた。

 あのジークヴァルトが、希美子を求めて余裕を無くしている。

 黙っていろという事は、どうにか自分を落ち着かせようとしてるのだろうか。

 荒い呼吸は収まらず、時折震えるように息を吐き出すジークヴァルトに希美子は次第にゾクゾクと感じたことの無い充足感に満たされていった。

 どうかしてる……と、希美子は思った。

 いつもの優しい幸福感のような、そんな感情ではない。

 仄暗い、支配欲のような、卑しい感情だ。

 いつも冷静なジークヴァルト。

 さっきの戦闘中だってジークヴァルトは一度も余裕を無くしてない。

 希美子が胸を貫かれた後だって、震えてはいたけれど、今出来ること、すべき事、冷静であれと自分に言い聞かせていればどんな状況下であってもそう在れる。

 ジークヴァルトとは、そういう男なのだ。

 となるとコレは反動だろうか。

 冷静であれと、最善はなんだと、それを実行するために押さえつけていた感情が、今、希美子が戻って来たことによって、理性的であらねばならない理由を無くして、決壊してしまったとでも言うのか。

 自分を、希美子を失くすかも知れないと言う、それが、目の前の――最強とも呼べるこの男をこれ程までに追い詰めるのか。

 希美子はその事実にこの上ない喜びを感じている自分を認めて戸惑う。

 自分はこんなに性格が悪かったのだろうか、あんなに心配させておきながら、反省するでも無く、こんな気持ちになるだなんて。

 そして、その先にある目を背けたくなるような欲望。

 この男が――完全に理性を無くした時、どんな風に自分を抱くのか、知りたい。

 雄を貶める、卑しい雌の発想だ。

 でも希美子は、どんなジークヴァルトでも知りたい。そして、彼がこんな風に理性を手放しかけるなど今後もあるとは思えない。

 この先の彼を知る、最初で最後の機会だ。

「……ジーク、抱いて」

「…………」

「ジークヴァルト……ジークヴァルト・アードルング」

 希美子が知ったばかりの彼の名前を呼ぶと、希美子を抱くジークヴァルトの腕に一層力が入った。

 ああ――今の彼が欲しくて堪らない……

「余裕なんて無くていい……ならさなくても、多分平気だし……その、此処に来てからずっとしてるから……もうジークヴァルトの形になっちゃってるって言うか、専用というか……」

「………………」

「だから、傷付くような事は無いと思うの。最初からずっと、ジークヴァルトのは気持ちいいだけだし……乱暴にされても、ジークのならきっと気持ち良くなっちゃ――――ッ」

 噛み付くようなキスだった。

 ジークヴァルトは勢いのままに希美子を組み敷くと、余裕など一欠片もない様子で彼女のスカートに手を突っ込んで下着をずり下げる。

 そして手早く自らの雄を取り出して勢いのままに、バキバキに硬くなった熱いペニスを希美子にぶち込んだ。

「んアァンッ!!」

「――――――ッ!」

 ジークヴァルトは苦しげに目をグッと閉じて――

 一拍置いてから、凄い速さで希美子は穿たれ始める。

 強い雄の抽送は、既に濡れていた希美子の花の蜜をコレでもかと掻き出して。

 胸当ても胴衣も抽送を止める事無いまま奪うように剥ぎ取られ、すぐに希美子は夜空の下で生まれたままの姿にされた。

 ジークヴァルトが穿つ度、胸が激しく揺れて身体全部で彼の激しさを感じた。

「ああんっはや……激し、こんなっ……!ジーク、ジークぅっ!」

 そんな希美子をジークヴァルトは燃えるような眼差しで見つめてくるから、希美子はその視線にまたどうしようもないほど満たされ感じてしまう。

 もっと見て、私だけを……私に夢中になる貴方がもっと見たい――

「あんっあんっあっ、ああ――」

 土の地面の上に希美子のローブだけが敷かれた状態で、今まで見たことがないくらい性急なジークヴァルトが欲望を全力でぶつけてくる。

 ジークヴァルトが覆い被さって来ると獣のような荒い呼吸が耳の中まで犯してくるから、たまらず希美子は腕を伸ばしてジークヴァルトに抱きついた。

(好き……大好き……ジークヴァルト!)

 白くなってしまったジークヴァルトの髪が希美子の頰をくすぐる。目の色だって違う、いつもと違う彼。でも抱きしめられた時に感じる逞しさは変わらない。それにすら感じてしまって――いつのまにかジークヴァルトの腰にも脚を回していた。

 ギンっ……と、また硬くなる。

 ――――ああッ気持ち悦い……

 ジークヴァルトに奪うようなキスをされながらバキバキに硬くて熱いペニスで攻められて、希美子は思わず手脚に力を入れてジークヴァルトにしがみ付いてしまう。

「あ……好き……、ジークヴァルトッ!――アッ、好きぃっ!!」

 ジークヴァルトの硬くて熱い大きなモノが希美子を遠慮なく穿つ、それだけで希美子は気持ち良すぎておかしくなりそうだった。

「ンァァアッ――アッ……きもちぃ、すき――ジークヴァルト好きっ、ああっ!」

 首筋に歯を立てられて、強い雄に組み敷かれてがつがつと穿たれるのはまるで屈服させられているようで――いや、実際希美子は屈服している。

 目の前の雄が与えてくるその力強い暴力的な快楽にただただ喘ぎ続けるしかないのだから。

 ――もっと、もっと私に夢中になって、私だけを見て、ジークヴァルト、ジークヴァルト、ジークヴァルト、ジークヴァルト――!!

「ァ……アッ……あ――――アァァァアアッ!!」

 希美子が深くナカでイき、ジークヴァルトの硬いペニスを締め付けると中で燃えるように熱い何かが広がった、しかし――

「ジーク、止まっ……ア!まだイッて、まだイッてるのおぉぉおっアァン!あっ……アァァァアア――――」

 希美子の制止などまるで聞く耳持たずに、向かい合っていた希美子の身体を繋がったまま反転させて、後ろから首筋に噛み付き胸を揉みしだき、希美子の好きな――小さな豆を掻き鳴らすかのように攻め立てる。

 希美子の蜜壺はジークヴァルトの欲望をギュウギュウに締め付け、痙攣し、絡みついて吸い付くように締め上げた。

「ッ――ッ――」

 背後から覆い被さるジークヴァルトの興奮しきった荒い呼吸を直に耳の中へ受けながら彼の肉を悦ばせるだけの雌になる。

 だから、ジークヴァルトのソレは直ぐに先程の硬度を取り戻して――再び希美子を攻め立てた。

 希美子はもう、下半身が無くなってしまったかのような感覚に囚われた。感じる事が出来るのはジークヴァルトが己を穿つ快感と肉芽に添えられた彼の指の感覚だけだ。

 戦闘後に興奮しきったA級冒険者が女を裸にひん剥いて犯す姿は客観的に見てどんなものだろう。

 しかし、女は乱れ善がり冒険者のペニスで穿たれながら夜空の下生まれたままの姿で最高の声で鳴いている。

 ソレにまた冒険者は興奮してペニスをギンギンに勃起させて、女の穴のその奥を何度も何度も何度も何度も責め立てる。

 欲望の赴くまま好き勝手に揺さぶっているだけなのに、女は「気持ち悦い気持ち悦い」と鳴いて、再び向かい合わせになった時、彼女は冒険者のペニスを逃すまいと両脚を彼の腰に絡ませてきた。

 この昂りに限界は無いのか、目の前の女は彼のリミッターをいとも容易く外しにかかる。

 自分は随分前から冷静では無いというのに。

 好き者かと、厭らしい女だと、そんな言葉を言ってやりたくなるのに、昂り切ったこの身体はただ女の躰を貪る事に必死になって、何か口にしようとしても荒い呼吸が震えるように変化するだけだった。

 こんな荒々しい抱き方にも必死に縋り付いて応えようとする女を、突き放してやりたい、可愛がってやりたい、壊してやりたい、労ってやりたい。

 もう、わけがわからない。

 女は雌穴で彼のペニスを食いしゃぶりながら、厭らしく仄暗い支配欲にも似たその何かが満たされた事で何もかもが快楽へと変わっていく。

 その、今まで知り得なかった脳髄が焼き切れるような境地で彼の欲望を受け止め続けた。

 これは危険だ。こんなモノを知ってしまって、この先自分はどうなってしまうのだろう。繰り返し繰り返し彼の執着を求め感じたくなってしまうのではないか。

 あの優しくて温かな世界に彼と二人いる時の幸せを覚えているのに、それだけじゃ満足出来なくなってしまうのでは無いだろうか。

 もっとして、もっと酷くてもいいから、私を壊してでも求めて、彼の全てを私に――――

 彼がずっとこのままならいい、正体を失って狂うほどに自分を求める彼のままでいい。

 男が吠えるような声をあげて、また女の中に熱い飛沫を吐き出した。

 ああ、彼はそんな声が出せたのか。

 もう一度聴きたい、何度でも。

 自分に夢中になって、理性なんて捨てて、獣の交尾のように激しく抱いて、私の中で達する時にまたその声を聴かせて。

 その声に、その熱さに、また満たされ塗り替えられていく。

 自分が自分じゃ無くなっていく。

 それはとても恐ろしい事の筈なのに、麻痺した感覚が喜びだけを与えてくる。

 食らいつくような口付けすら、何処か愛を乞い縋るようで――

 全部頂戴、全部、受け止めてみせるから。

 自分に夢中になって腰を振る強い雄をずっと感じていたい、見ていたい。

 苦しげに歪む顔も、荒い呼吸も、限界まで張り詰めた性器も、吐き出される白濁も、全部、全部が自分に向けられたモノなのだと。

 あんなに強い男が、全力で欲望をぶつける相手は自分なのだと。

「――――ッジークヴァルト!!」

 グッと、力強く抱きしめられたまま、希美子は意識を手放した。

「ッ――――…………」

 名を呼ばれ、何度目かわからない欲望を叩きつけた後、彼女の鼓動を感じながらジークヴァルトは暫くそのままだった。

「………………」

 彼女を、希美子を失うかもしれないと思った時、ジークヴァルトははじめて兄の気持ちがわかってしまった。

 死と隣り合わせのツガイを何も出来ずに眺めている事しか出来なかった彼を思う。

 ――――狂うかと思った。

 希美子の血を見た時、とても冷静でなんていられなかった。

 ただ、冷静に処置をするフリをして荒れ狂う衝動を必死に抑えた。

(なのにこのザマは何だ……)

 ジークヴァルトは目の端に映る自分の前髪を見てから、寝息を立てる希美子の首筋に顔を埋めた。

 この緊急事態に致してしまったのは、まあ、どちらにせよ何処かのタイミングで魔力循環は必要だったのだしと言い訳をしつつも、抱き方に問題がある事は後で反省しようと脇に置く。

 ――勇者因子

 ジークヴァルトはシロ達から聞いた事がある。

 勇者因子とは、魔力を動力源とするあらゆる世界に置いて必要不可欠とされる『魔王勇者システム』に協力する強き魂が持つものなのだと。

 詳しい事はシロも知らないらしいが、アントワールは魔王勇者システムの利用法が特殊らしく、勇者因子を持ちつつも勇者とならなくても良い世界なのだという。

 よって、勇者因子を持つ魂達にとってアントワールは休養所という枠組らしい。

 それを聞いたジークヴァルトは若干納得のいかない顔をしたが、成長するにつれ自分がどれだけ規格外なのかもわかったので、とりあえず次はその『協力』というのは辞退しようと決めるに留めた。

 今回、ジークヴァルトはアントワールに於いて、ならなくても良しとされている勇者になって危うく魔人領を滅ぼす勢いだった。

「………………」

 これは大いなる反省点である。

「………………」

 大いなる反省点である。

「………………」

 反省点だ。

「………………」

 ジークヴァルトはいつも通りの魔法を希美子に掛けて清めていく。

 己を引き抜く時、スルリと指で触れて希美子のそこが傷ついてないかを確認すると安堵した。

 回復魔法をかけて希美子が目覚めるのを待つ間、彼女を抱き上げたままある場所から紅く光る石のカケラを拾い集めて布に包むと亜空間の中へ入れた。

「ん……ジークヴァルト……?」

「…………ああ」

 希美子が意識を取り戻した時、いつも通り身体がサッパリとしていてジークヴァルトがまた希美子の世話をしてくれたのだと気付いた。

「…………なんだ……?」

 チラリとジークヴァルトを盗み見るようにした希美子が彼の視線から逃れるようにジークヴァルトの胸に顔を埋めた。

「…………どうした?」

「…………ぃ」

 まさか顔も見たく無い程に怖かっただとか、酷かっただとかそう言う訳では無さそうだが、少し焦ったジークヴァルトは何か言いたげにしている希美子に耳を寄せた。

 獣人の聴力でも聴き取れなかったので。

「………………すごく、悦かったので……また、あんな風にして下さい……」

「…………………………………………」

 ジークヴァルトは忘れているようだが、君のツガイはそこそこの変態である。

 ジークヴァルトは一瞬目眩を覚え脱力しかけたが、これ以上無様は晒せないとばかり耐えてみせた。

「っあ、ジークヴァルト!もう大丈夫だから、レイアに向かわなきゃ……!って言うかシロちゃんは?!仕舞っちゃったの?」

 神殿では信仰の対象ともなり得る聖白竜を捕まえて「仕舞っちゃった」とは何事かと思うが、此処にはツッコミを入れられるのはジークヴァルトしか居らず……彼はスルースキルに長けていた。

「……それに関しては、魔王からコレを渡されている」

 一応、信用してみても良さそうな匂いをしていた魔王をジークヴァルトは思い出しながら、銀色の卵のような魔道具を取り出した。

 複雑な蔦のような装飾に包まれたソレは薄ぼんやりと輝きを放っていた。

「ジークヴァルトそれは?」

 先ほどジークヴァルトが希美子を抱きしめていた時に魔王が説明をして置いて行った筈だが、希美子はジークヴァルトに意識がいって聞いて居なかったらしい。

 ――その者の心在る場所に移動出来る魔道具だ

 その言葉を思い出しながらジークヴァルトは少し考えてから言った。

「……………………レイアに行ける魔道具だ」

「えっ?!魔王そんなもの持ってたの?!それって色々大丈夫?!」

 魔王の説明をそのまま伝えるのも憚られて適当に言ったらツッコまれた。

 頭の回転が良いと言うのをすっかり忘れていた。

 さっきアホな事を言われたばかりなので。

 希美子は一人納得したように、ああそっかだからか……などと言っているのが気になったがジークヴァルトの嗅覚がここはスルーした方がいいと判断してさっさと魔道具を発動させる事にした。

 正解である。

 移動手段も手に入れて気が抜けちゃったのかな、だからあんなにギ……とか思っていたので。

「……希美子掴まれ、行くぞ」

「あ、え?!はい!」

 ジークヴァルトがその魔道具を握りこむと、掌を縫うように青い光が漏れ出て東へ向かって一筋の道を描きだす。

 その様子を見て大丈夫そうだと判断したジークヴァルトは一気に魔力を流し込んだ。