34.狼獣人さんと魔王様

 ジークヴァルト・アードルング、その名前を久々に彼は耳にした。

 アードルングは代々黒狼族の族長一族が受け継いで来た名前、名乗れば必ず足は付く……何よりジークヴァルトはもうあの群れには帰らないのだから必要のない『記号』だ。

 冒険者登録する時に『ジーク』と名乗った。

 まだ実力も乏しい初級冒険者だったジークヴァルトは、奴らに見つかる訳にはいかなかった。

 でも何故だろうか、気が付けば希美子には本当の名前を伝えていた。

 当初、自分の名前を呼び辛そうにしていた希美子に「ジークでいい」とそう言ったのに、希美子に「ジークヴァルト」と呼びたいと言われた時――何故か息が詰まった。

 名前など、記号でしかない。

 捨てようと変えようと何とも思っていなかった筈なのに。

「全く突然なんなんですか人の話は最後まで聞きましょうよ」

「………………」

 ジークヴァルトが剣に聖属性を纏わせ口を切り裂いた黒狼族のアンデッドは、既に彼の足元で砂に変わりつつあったのに、全然別の方向からさっきまで不快なお喋りに興じていた者の声がした。

「……お前は、レイスか?アンデッドの王がこんな所で何をしている?」

 ジークヴァルトがそういうと、今度は灰色に近い黒い髪を短く切り揃えた年配の狼獣人が嬉しそうにニヤリと笑った。

「さすがA級冒険者、ご明察です。実は数年ほど前に魔王の怒りを買ってしまいましてねぇ、危うく消滅させられそうになったので命辛々魔人領の外へ逃げ込んだんですよ」

 男は懇切丁寧に話してくれた。

 魔王によってもはや塵に等しい魂の欠片となり、各国を転々としていた所に女神の祝福を全く受けない土地が存在した事はこの男にとって僥倖だった。

 恨み辛み思考を停止させ、自分を省みる事無く他人を憎むだけの醜い心――それに取り憑いてレイスは彼らの生命力を徐々に奪う事で力を取り戻していったらしい。

 日に日に身体が衰弱していく原因不明の症状を、黒狼獣人達は族長一族が落ち人を殺したたからだとますます憎しみを募らせレイスは笑いが止まらなかったと言う。

 レイスは彼らが『族長の息子を取り逃がした事で女神様の怒りを買った』のだと、『自分達が不遇の立場にあるのは未だどこかで生き延びている族長の息子の所為』なのだと信じて疑わなかった愚かな彼らの話をジークヴァルトに聞かせた。

「いやあもう傑作ですよねぇ!獣人は『落ち人』や『祝福』に対する理解が乏しいとは聞いていましたけど!」

 レイスの欠片と名乗った男を護るように、狼獣人のアンデッド達がジークヴァルトを囲んで行く。

「そも!『落ち人』とは女神に愛された者に与えられるのですよ!?貴方の一族が女神に愛されていると知っていながら殺しておいて『祝福が与えられない』などと!自分達が女神に牙を剥いた事にも気付いていない!これだから祝福に頼り切って生きてきた怠慢な種は能が無い!」

「……そうかよ」

「まあ、その思考停止のお陰で私がこうして再起を図れているのも皮肉な話ですけどねぇ……彼等はとても良いモデルケースに成りました」

 モデルケースという言葉に、ジークヴァルトは今回のスタンピードの目的を知る。

「…………レイアで同じ事をするつもりか」

「そう!前々から狙っていたんですよ!なのに上級冒険者には全く旨味が無いと言われるあの街に貴方がいる事で実行する機会を決めあぐねていたんですけどね……」

 突如上空に現れた亀裂――その中から複数のワイバーンとドラゴンが出現した。

 ちっ――ジークヴァルトは舌打ちする。

 獣人国でだけワイバーンの群れが確認されなかったのはレイスがせっせとコレを作っていたからかと。

「落ち人を護りながら、どれだけ戦えますかねぇ?!噂のA級冒険者が最後の黒狼獣人だったなんて!これぞまさに私こそ魔王になるべきだと言う采配では無いですか!!」

 レイスの僕と成った死竜達が一斉に希美子達に向かって攻撃を開始した。ワイバーンは圧倒的上位種であるはずの聖白竜へ迷う事なく特攻する。

「――希美子!」

「おっと、あなたのお相手は此方の方ですよ?」

 ――けたたましい金属音が鳴り響いた。

 ギリッ……一瞬の鍔迫り合い。後方へ飛び退いたのは着物に似た服を身に纏った精悍な年配の狼獣人だった。

「…………」

 ジークヴァルトはその姿を見留めて目を細める。

「骨だけに成っていたものを、二日で修復したにしては上出来ではありませんか?貴方がこの男の息子と知ってコレは面白いカードだと思ったのですよ!」

 そう――ジークヴァルトの前に立ちはだかったのは、黒狼獣人の族長にして彼の実の父親。

 ジギスヴァルト・アードルング

 ジークヴァルトを逃し群れに残った男が、生かしたかった筈の息子へ剣を向けていた。

「……再生魔法は魔人のお家芸だったな、だが」

 ジークヴァルトが動きを止めたのは一瞬、レイスの目にも止まらぬ速さで、気付いた時には彼の剣がジギスヴァルトだったモノを貫いていた。

 心臓よりも少し下、人型の生き物の構造上アンデッドの核が位置する事になるその場所を。

「なっ……な……貴方?!ヒトの心は無いんですか?!父親でしょう?!」

 ズルリと、ジギスヴァルトだったものがジークヴァルトの身体に寄りかかるようにして倒れ込む。ジークヴァルトは剣を引き抜き、ソレを抱きとめると――向かって来たものを薙ぎ払う。

 ソレは女狼獣人――彼の母親だったモノ

 向かって来た勢いのままにジークヴァルトへ倒れこむソレも抱きとめると、ゆっくりとその二つを地に横たえた。

 すぐに砂状化が始まる。

 ジークヴァルトはただジッとその光景を眺めていた。

「な……なんで……」

「お前に答えてやる義理は無い」

 視線をそのままにジークヴァルトが言葉を発したその時、聖白竜を追う飛来生物たちの頭上と辺り一面見渡す限りの大地に何千という聖印が出現した。

「――なっ?!」

「……俺が気付いていないとでも思ったのか?こんなに臭え地面に気付かねぇ獣人がいるかよ」

 瞬間――大地が揺れた。

 聖なる光で亀裂を生みながら、その隙間から広がる金切り声の大合唱――そして、空には粉塵が立ち込めた。

「死体をわざわざ土に埋めたんなら、そのままにしといてやろうっていう俺の親切だ。感謝しろ」

「――ッなんて事をしてくれたんですかあああああっ?!!」

 半狂乱になってレイスが叫ぶと、ジークヴァルトを取り囲んでいた百は下らない狼獣人達が一斉に彼へと襲いかかった。

 ジークヴァルトの周りに四匹の大きくて白い狼が出現する。

「おい、お前らの子孫だ。 供養してやれ」

『愛し子の血筋を根絶やしにしようとした奴らを?ご冗談は程々に願います』

 フンっと鼻を鳴らした白狼達が四方へ飛躍した。

 死肉を食いちぎり、爪で引き裂き、頭蓋を噛み砕いてゆく。

 一方、ジークヴァルトは取り零しを斬っていく。

 その間も結界魔法で狼達の足場を宙に作り、其処此処に地雷魔法をしかける器用さを見せた。

「そんな馬鹿なそんな馬鹿なそんな馬鹿なそんな馬鹿な――――!!」

 このままではジークヴァルトが全てを片付けてしまうのは時間の問題だった。

 レイスはそれを理解した瞬間、聖白竜に乗ったジークヴァルト達へ放った最初の魔法を自分の作った黒狼獣人アンデッドに構う事なく打ち込みまくる。

「どうですッ!何年もかけて貴方の群れから吸い取った生命力ですよ!!私は!この力を!あのレイアでも得て!魔王に成り代るのです!邪魔しないで頂きた――ガァ?!!」

 ジークヴァルトを倒す事に夢中になっていたレイスは聖白竜からの攻撃をマトモに食らった。

「――おいシロ、何してる?」

『希美子が不安がっているわ、早く終わらせて頂戴』

「………………」

 激しい攻撃が止み、土埃舞う中で希美子の方からはジークヴァルトが見えなかったが、またあの不機嫌そうな顔をしているんだろう――そう、希美子が思った時だった。

 ――スパンッ――

 そんな、軽い音だったように思う。

 軽い音、しかし……嫌な音だった。

 何故ならその音は――希美子の胸で鳴ったのだから。

「――――え……?」

「ッ希美子!!」

 グラリとバランスを失った希美子が聖白竜の背中の上に倒れ込み――胸から流れるその液体で、ズルリと滑り落ちた。

 ジークヴァルトは希美子から視線を外す事なくその直ぐ下へ走り込み希美子をギリギリで受け止めた。

『結界が……ッ――魂にエネルギー体を内包させて結界ごと肉体を貫くなんて狂気の沙汰だわ!』

 ジークヴァルトの結界が破られた事に一瞬は驚愕した聖白竜だったが、直ぐにその原因に思い当たると取り乱したように叫んだ。

 それにただの、いや、高密度のエネルギー体と化したレイスが答える。

『曲がりなりにも魔王の目を掻い潜って逃げ果せた私を侮り過ぎなのですよ、奥の手くらい用意してあります』

 眩しく光り輝く球体は、勢い付けて希美子を抱くジークヴァルトの背中へ迫った

『――やはり!落ち人を頂くヒトとは愚かなものです!背中がガラ空きで――』

「俺はコレでも冒険者だからな――」

 エネルギー体を纏った魂だけになったレイスが最後まで言い終わる事なく、突然出現した蜘蛛の糸のような光にその身の其処彼処を絡め取られて羽交い締めにされた。

「貴様の正体であるとか、目的なり計画なり、色々と話を聞く必要がある……が」

 ジークヴァルトは次々と亜空間から何かを取り出し、希美子に処置を施しながら話していた。

「お前はもう――消えろ」

 ――くちゃり、と、音を立ててソレは悲鳴をあげる間も無くその輝きごとシュルシュルと出現した光の糸に繭のように丸められると、直ぐ傍に出現した亜空間の中へ吸い込まれていった。

 そして、静寂。

 黒狼獣人のアンデッド達は既に白狼達によって刈り取られ、彼らは静かにジークヴァルト達を見つめていた。

「希美子、聞こえるか?」

「じ……く、ば……っ……」

 希美子は胸元を肌蹴させ、その胸には草の根の様な魔道具が希美子の鼓動に合わせて振動していた。

「少し穴がデカイ、再生魔法を使える奴等の所に行く」

『再生魔法なんて?!魔人領へ行く気?!あの場所は魔人以外の入領は難しいって言ってたじゃない!』

「……向かって来れば皆殺しにするまでだ」

『ッ――!!』

 聖白竜は、戦慄した。

 いつもの様子と違う愛し子の言葉では無く、彼の姿を見て。

『いとし、子……?』

 ジークヴァルトの姿が、聖なる光を帯びて変化していく。

 黒かった髪は、その先から見る間にその色彩を無くして白色に。

 その黒い瞳も灰色へと変化していった。

『愛し子待ちなさい!落ち着いて――』

「ッ少し黙ってろシロ!」

 ジークヴァルトは亜空間より次から次へと何かしらを取り出しては苦しげに息を乱す希美子へと処置を施していた。

 妙子達が使える蘇生魔法は、治癒魔法で修復可能な肉体にのみ有効であった。

 ジークヴァルトもその程度の蘇生なら可能な魔道具を持っていた。

 現状希美子の胸には風穴が空いたような状態になっている、ジークヴァルトが想定しうる最低最悪の状態だった。

「これで多少の痛みは緩和される、飲んでおけ」

 希美子はジークヴァルトが口に運んだ瓶の口、その中身を飲み込むと確かに胸の焼けるように熱い感覚が和らいだ。

 しかし、何故だろうか。

 希美子の視界はボヤけていて、ジークヴァルトの姿がよく見えない。

「じ……く、レイア……は?」

 瞳孔を彷徨わせてジークヴァルトへ言った希美子の様子に彼はギリッと歯を食いしばった。

「……シロ、お前は白狼達を連れてこのままレイアへ行け。お前がいれば半数以上は焼き払える筈だ」

『……わかったわ、移動だけなら私よりも速い子がいるものね』

 希美子は朦朧とする頭で考える。

 ジークヴァルトは希美子に再生魔法とやらを施す為に魔人領へ行くと言う。果たしてそれはどの位の距離なのか、行って戻って来て――レイアは一体その頃どうなっているのだろう……?

 目の前の、希美子の愛する人は、今何を考えているのだろう……?

 彼の、顔がみたい……

「ジ……」

 希美子が言いかけた時、ジークヴァルトの手が頰に触れた。

 その手は、希美子に今まで触れたどんな時よりも冷たく、そして――震えていた。

「……ごめ、なさい、じ……く、ごめ……」

 見えていなくても、触れた箇所から彼の感情が流れて来る――希美子の瞳に涙が溢れた。

「行け、シロ」

『わかったわ……』

 バサリと、重い羽が低く鳴り白狼達を乗せた聖白竜が舞い上がる。

 十分な高度へ昇ると東へ向かって行った。

 後に残されたのは希美子達と、アンデッドだったモノが砂へと還る光景。

 ジークヴァルトは希美子をローブで包み、ゆっくりと優しく抱き上げると何がしかを唱え始め――

 ――シャンッと音を鳴らせて、その背後に高さ五メートルはあろう数千の針山を築き上げた。

「俺は今気が立っている、敵意が無いならそれらしい行動をしろ」

『……遅くなった事は詫びよう――勇者因子を持つ者よ』

 夜空を支配するような甘く響く低い声が、ジークヴァルトに語りかけた。

『我が名は魔王エルサリオン。其方のツガイを、我が落ち人に診せる事に同意して欲しい』

「……姿を見せろ」

 ジークヴァルトが言うと、目の前の空間が人一人分通れる大きさに割れて、中から一人の男が現れた。

 黒く艶のある長い髪を風になびかせ、伏し目がちな瞳はどこか憂いを帯びていた。

 その瞳は魔人の証とも言える血のような紅、青白い肌には正気がなく、人の形をしていながら現実味のない雰囲気を醸し出している。

「……何故魔王が此処に居る」

「十数年前に消したと思っていたレイスの反応を二日前に確認して直ぐに出立したのだがな、魔人領以外での移動手段は限られている故遅くなった 」

 ジークヴァルトは注意深く目の前の男を見詰めている。

 自分と同等、それ以上の人間の圧を彼は久し振りに感じていた。

「しかし先程――其方が勇者因子を震わせて居たからな、其れを座標とさせて貰った」

 魔王が言い終わると、彼の長いローブの中から一匹の黒猫がスルリとジークヴァルトの前へ降り立った。

「魔人領に獣人族及び人族の国へ対する侵略の意思はない、どうか気を鎮めてはくれまいか」

「……どう落とし前を着ける」

「其方のツガイを治療した後、アンデッドが大量に向かっているらしい街に鎮圧へ向かうつもりだ。その後はその街の貴族、国家間の話し合いとなるであろうな」

 魔王とジークヴァルトが話している間、黒猫がトコトコとジークヴァルトへ近づいて来た。

『苦しそうだから早く見せて、その娘「落ち人」でしょう?エルサリオンと私だったら私に診せた方がマシじゃない?』

「……魔王、お前のツガイはこの猫なのか?」

「…………色々と事情があるが、元は他の落ち人と同じ人族の娘だ。腕は信用して欲しい」

 胸を張る黒猫と、何処か気まず気な魔王の様子にジークヴァルトは希美子を静かに横たえた。

 黒猫は希美子の腕に前足を片方乗せて、穴の開いた患部に猫の手をかざすと、その高い声で詠唱をはじめた。

『天に座すは全能神セレスよ、今こそ我が言に耳を傾けよ、我が願いはかの者へ生きる術を与えんとするもの也――再生――』

 猫の肉球からキラキラと光の粒が舞い降りて穴の空いた希美子の胸へ降り注いでいく。

『そろそろ生命維持の魔道具を取って大丈夫よ、優しくね』

 零れ落ちた光の粒が希美子の胸いっぱいになると次から次へと溢れてくるが猫は術を止めない。

 ジークヴァルトは言われた通り、草の根のような魔道具を取り外すと空いている方の手で希美子の額を撫でた。

 顔色が少しずつ良くなってきている。

『そろそろ回復魔法をかけてもいいわ』

 猫がそう言うのを待って居たかのようにジークヴァルトは何事かを口の中で呟くと回復魔法を発動させた。

「ん……」

 希美子が身じろぎする。

『うん、もう平気よ』

 猫がそう言って離れた後、ジークヴァルトは希美子の胸が確かに治っていることを確認して、希美子の名前を呼んだ。

「希美子、起きろ」

「……ジーク?」

 希美子の瞼が震え、その瞳が開かれた時目にしたのは――

 ――黒い色彩の一切を無くしたジークヴァルトであった。

 希美子は命拾いしたばかりであるというのに、目の前の現象を問わずにはいられない。

「――え?!ジーク?!なんで髪の毛真っ白になってるの?!目の色が灰色ってどう言う事?!それ、見えてる?!」

「…………………………見えてる」

 希美子があまりにいつも通りの様子なので、ジークヴァルトは魔王の前だと言うのに脱力しかけたが、気力で踏ん張りそれだけ言った。

 希美子の疑問に答えたのは意外にも魔王であった。

「……勇者因子が半ば覚醒しかけた弊害だろう、直ぐに直る」

「え、誰?!」

「……魔王だ」

「魔王?!!!え、ジークこれ――」

 希美子が最後まで言い終わる前にジークヴァルトの逞しい腕が彼女を抱きしめた。

 背中に腰に回されたその腕は、全身で彼女を感じようとするみたいにただ、力強く。

「……ジーク」

「………………」

 いつに無いジークヴァルトの様子に、希美子は彼にどれだけ心配をかけたのか思い知る。

「……ごめん……ごめんね、ジーク」

「…………」

 そんな二人を見てもう大丈夫だと思ったのか、魔王エルサリオンは懐からある物を取り出すと二人の直ぐ傍にソレを置いた。

「その者の心在る場所に移動出来る魔道具だ、勇者因子を持つ者よ――そなたの心がかの街にあるのなら一瞬で移動できる」

 ――時間が無い、私達は先に向かう。

 そう言い残して魔王エルサリオンとそのツガイの黒猫は浮遊魔法で飛び立って行った。

「…………」

「…………」

 後に残された希美子とジークヴァルトの周囲に静寂が訪れる。

(どうしよう、ジークがピクリとも動かない……)

 ジークヴァルトは希美子を抱きしめたその時のまま、力を緩める事なくずっと希美子を抱きしめていた。

「ジ……ジーク?」

「………………」

(えぇ……ど、どうしよう?)

 希美子は取り敢えず、ジークヴァルトの背中に手を回してあやすように撫でてみた……が、反応はない。

 そして……希美子には先程から気になる事が一つあるのだ。

 コレは問題である、と希美子は思う。

 希美子を横抱きにした体勢からジークヴァルトは彼女を抱きしめた為に、希美子の太ももがジークヴァルトの……そこに、当たっている。

 そして、問題と言うのは……

(す、スッゴイ硬くなってる、ば、バキバキに……し、しかもめちゃくちゃ熱い……)

 それが戦闘後の生理現象なのか、希美子を失うかもしれないと言う出来事の後だからなのか希美子にはわからなかったが、どうしたって彼は希美子のツガイで希美子の好きな人なのだ。

 しかも先ほど初めて戦闘中の彼を見た。

 控えめに言って、滅茶苦茶カッコよかった。

「……ッ」

(ど、ドキドキしてしまう……って言うか、ハアハアしてしまう……でもダメだよね、一刻も早く街へ戻らなきゃ……え、戻すの?この状態のジークヴァルトを?!)

 咄嗟にフルボッキしたまま戦うジークヴァルトをそうぞ……

(したら駄目!!)

 ……しない事にした希美子は、コレはどうしたものかとぐるぐると目を回し出した。