3.狼獣人さんにヘロヘロに(物理)されました※

深い、口付けだった。

 希美子はすぐにその口付けに夢中になった。

 好きだと自覚した男からのキスである、夢中にならない筈が無かった。

柔らかな舌に絡め取られ、官能を引き出すように艶めかしく嬲られた。

時折、ちゅるりと吸われては希美子の快楽が強制的に引き出される。

翻弄される、その感覚が心地良い――

 好きだと、そう、思った彼からの口付けは甘く痺れて、しかし、すぐに訳がわからなくなった。脳が痺れたみたいに頭がジンジンとして、耳鳴りのような感覚もある。

 深い口付けは、しっかりとは思い出せないがさすがにはじめてという訳ではない筈なのに、呼吸の仕方が覚束ない。

「んっん、ん――ッ」

 しかも、ジークヴァルトの杭がズッ、ズッ、と希美子の中へ押し入ってくる。

 過ぎた快楽に飲まれそうになって、希美子は陸で溺れるというはじめての経験をした。

 ジークヴァルトが喉の奥でクッと笑うと、ゆっくりと唇が離される。

 希美子は、未だ静かに押し入ってくる彼の欲が己の中に与える快楽に震えながら、彼の表情を窺う。

 すると、ニヤリと笑われて思わず希美子はぶすくれて「なに?」と聞いた。

 肩で息をしているし、真っ赤になった顔で涙目に言われてもさっぱり威嚇になっておらず、その様子にジークヴァルトはフッと噴き出した。

 ふつうに見たならば、何か馬鹿にされたような笑い方であるにも関わらず、希美子はまたしても萌え悶える。

(は、はじめて、笑った?!)

 思わずキュンッと締め付けてしまって、ジークヴァルトは「おい」と非難の声を上げる。

 でもそれだけだ『お喋りしない』と宣言した彼はそれ以上何も言わず、ただ希美子を「仕方ねぇな」というような表情で見るに留めた。

(に、苦笑い……とか、本当にマジで……)

 もう、どうにも耐えられず希美子は両手で顔を覆った。

 キスは終わった筈なのに呼吸が荒くなる。

(もう、本当にマジでなんなのこのヒト、なんなの、なんなの、殺す気なの?)

「ったく」

 希美子が悶えているとジークヴァルトが徐に彼女の両腕を引き上げて、彼の膝の上に座らされた。

「あん!」

 所謂、対面座位であるが座らされた瞬間、ジークヴァルトの杭が最後のダメ押しとばかりに深く突き刺さって希美子は思わず声を上げた。

 その中心から、ドクドクと脈打つのは果たしてどちらの物なのか。

 ジークヴァルトは手に取ったままだった希美子の手を自分の衣服に導く。

「え……」

「…………」

 ただジッと希美子を試すような視線で見つめてくるジークヴァルトに、希美子は戦慄した。

(ぬ、脱がせろって事――?!)

 一体何のプレイだろうか。

 目の前の、眉間の皺が形状記憶なイケメン獣人が、希美子に脱衣させろと言っているのだ。

 出会った時に着ていた冒険者らしい防具やらはいつの間にか外されていたので、彼の上着はシャツ一枚である。

 希美子が戸惑っていると、不意に下からズンッと突き上げられた。

「っあ!?」

 思わず彼のシャツを掴んで、やり過ごし、キッと睨んで見上げると、ジークヴァルトはまたニヤリと笑った。

 ピクリと動く獣耳も今は全然可愛らしくみえない。憎さ百倍も良いところである。

(もう、なんなのなんなのこのイケメンは――!!)

 希美子は半ばヤケになりながらジークヴァルトのシャツを捲り上げ――そして後悔した。

(あ、ヤバイ――鼻血でる。獣人様の肉体美ナメてた。こんなの無理)

 希美子はジークヴァルトのシャツを中途半端に捲りあげた状態で俯いて唸り声を上げだした。

「うぅ……うう……」

「…………」

 不意に頭に柔らかくポンポンと言う刺激を感じて顔を上げると、そこにはジークの腕があって、希美子は頭をポンポンされたのだと気づいた――と、その時、彼は不敵に笑うと自分で上着を脱いだ。

「ちょっ?!」

 パサリと、彼の上着がベッドの下へ投げられると希美子に伸ばされた手が彼女をジークヴァルトの胸に引き寄せた。

「っ――あ……」

 鍛え上げられた、均整の取れた筋肉に抱き込まれて、しかも少し感じただけで胸一杯になった彼の香りに包まれて希美子は軽くパニックになる。

「あっ……あ、あ、アッ!」

 そして開始される律動。

「いや、だめ……ほん、ホント!おかしくな……おかしく、なっちゃう――からぁっ!」

 繋がる場所はもう何処が境目なのかわからなくなるくらいにジンジンと痺れて感覚が消えていって、希美子に快楽だけを与えてきた。

「こ、こんなの、……あっ!無理、ああっ」

 ガッシリとした逞しい腕の中にギュッと抱き込まれながら下から突き上げられ翻弄される。どんどん身体中、お互いの境目がわからなくなっていく。

「痺れっ……も、なに……身体ジンジンすりゅっ……や、らに……これぇ――あっそこっ?!」

 ズッズッズッと同じリズムで一番奥――希美子も知らなかった一番感じる場所を断続的に穿たれていると、身体中痺れはじめて訳がわからなくなる。

「やっ、こりぇ……らにっ?!なっ……ぅやあんっうっ――ああっ!」

 ジンジン、ジンジンと、全身が性感帯になったみたいになってくると少しの刺激も相当で――

「っあ――しっぽ、らめ……脚くすぐった……あ!」

 しかも、彼女の性癖、獣人との営みをまざまざと突きつけられる『尻尾愛撫』まではじまった。

「やんっ、脇はだめぇ、だっ……らっしびしびって、してゆ、のぉ!らめ、なのっ……やぁっ……!」

 大きな尻尾が希美子の腰にまで巻き付いて来た。

 この時、このジークヴァルトの尻尾は彼の意思とは裏腹に希美子に対する独占欲をこれでもかと言うほど露わにした動きだったのだが、この世界に来たばかりの希美子にはわからなかった。

 ジークヴァルトの胸板に抱きすくめられ、彼の乳首が頰に掠めるだけで希美子は、ぶるりとふるえた。

(き、気持ちい――――っどうしちゃったの、私の身体、全部……ぜんぶきもちいい)

 ズッズッズッズッ……と、揺れる度にもともと痺れた身体に過ぎた刺激が走ってジンジンする。

 コレが、セックスだと言うのなら、多分希美子は今はじめてセックスをしているのだろうと思った。

(こんなの、ない……こんなの……知らない……)

 ズッズッズッズ……

(きもちい、きもちい、きもちいい、きもちいい……)

「くっ……あっ……あっ……あっ……っ」

(きもちい、きもちい、きもちい、きもちい――)

 その時、ジークヴァルトが希美子の耳に吹き込むようにその低い声で囁いた。

「希美子、キスするぞ」

「っん――――――!!」

 それがとどめとばかり、ジークヴァルトの両腕に抱きすくめられた状態のまま、彼の腕の中で希美子は果てた。

 ――

 ――――

「気付いたか」

「……わたし?」

 希美子が気付くと、ジークヴァルトと二人、ベッドに横になっている状態だった。

 ジークヴァルトは頬杖をついて希美子の髪を撫でている。

「……ジーク、なに、したの?」

「……あ?」

「身体の痺れ、取れてない……シーツが触れてるだけでもシビシビする……」

(なに、なんなの、テクニシャンなの)

 ジークヴァルトが触れている髪の毛からでさえ痺れが響く己の状態に呆然とする希美子。

「毎回、こんなだと……本当に私死ぬと思う」

 ジークヴァルトの獣耳がピクリと動いた。

「その『毎回』があるかどうかはコレからだ」

「え、まだ……」

「『本番』が残ってんだろうが」

 そう言って上半身を起こしたジークヴァルトは痺れて動けない希美子をうつ伏せに寝かすと、安心させるように頭を撫でながら言う。

「――お前は『大丈夫』だと言ったが、無理だと思ったら枕に顔を埋めるか目を閉じるかしてろ、出来るだけ早く……は無理だが、寝てる間に終わらせる」

「え……え?……え??」

 最後にクシャっと希美子の頭を撫でて、ジークヴァルトは離れた。

 すると、何かわからないが……気配が騒つくような、空気が騒ぐようなそんな気配が辺りに満ちていく。

(え、あれ?!もしかして獣化?!)

 希美子は自由にならない身体に鞭打ってどうにか変身シーンを見ようとするが、少し動いてシーツに肌が擦れる度にジンッと強い刺激に当てられて思うように動けなかった。

 それでもどうにか顔だけは動かして

 ――見た先にいた物に目を見開いた。

「……ちっ、ほら、目ぇ瞑っと――」

「――え、ちょっと待って?!赤ずきんちゃんパターンだと?!」

「あ?」

 希美子的に想定していた獣人化パターンには三つの種類があった。

 まず、まんま地球の狼さんのパターン。

 このパターンだと、色々と倫理観的な何かがさすがの希美子の中でも引っかかったと思われるが、まあ、未知に対する恐怖的な……倫理をぶち壊す勇気というか、そんなモノを最初に感じるだろうが、中身がジークヴァルトなら「ま、いいよね?世間さん」と思うくらいだろうと想定していた。

 サイズ的にも小さくなるので、例のコブとかあってもまあ、と、思っていたのだった。

 次に、どっかの神さま的なでっかい狼さんパターンだ。

 これも、未知とか倫理とか世間さまとか色々掠める事はあるけれど、めいいっぱいモフモフできるという意味では気分的には『ヘイ!かもん!』って感じではあるのだが、いかんせんアレのサイズだけはちょっと怖いなと思っていた。

 身体が大きくなれば、多分アレだって大きくなるだろうと。

 人間って結構頑丈で良く出来てる。的な、エロ小説の常套句が真実であったと願う他ないと結論付けていた。

 そして最後に、二足歩行のファンタジー狼さん。

 そう、赤ずきんちゃんパターンである。

 これはもう、むしろ、獣人萌え希美子的に言えばガチでバチコイ!の、奴である。

 手足があって二足歩行なら寧ろ殆ど人間だろう。その上モフモフ出来るなんてなんてご褒美だ?!異論は認める。しかし私は突き通す!それが上山希美子という人間だった。

「え、ちょっと、なんで今わたし身体動かないかな?!ええ?!モフモフしたい、やだやだ!モフモフさせろおおおっ!!」

「……」

「ジークのばかぁっ前戯が気持ち良すぎるんだよおおおっこのテクニシャンめえええっ!!」

「………………」

「どうしてくれる!私の!初獣人さんエンカウント!文字通りマグロで終わらせる気かぁ?!このきちく――!!」

「…………………………」

 古今東西、萌え対象『推し』を目の前にしたオタク女子とは我を忘れるもので――

「モフモフとの初えっちがぁ!素敵獣人さんとの初えっちが!ツガイとの交尾があああ!!こんな何も出来ない状況ではじまるだなんてえええっ!!」

 例に漏れず、この上山希美子もしっかり我を忘れたのだった。

「ジークのっばかあああああっ――!!」