農村部、葡萄畑のど真ん中にポツンと一件の神殿が建っていた。
のどかな風景とは裏腹に、その神殿の二階では凄まじい光景が広がっていた……。
「おい……ハァ、ちょ……タンマ、もう無理だ……さすがに無理だ……チンコ痛ぇからちょっと抜け……」
「は……ハァ……ハァ……あ、はい。ちょっと……回復魔法も無しにやるものでは無いと……ハァ……お祖母様も言っていたのに……ハァ……我を忘れてしまいました……」
ずっと咥えていた彼のアレをゆっくりとオリエンヌは抜いた。
ちょっとお見せ出来ないほどの色々が色々な感じに汚れ、空気も湿気も……匂いも物凄い事になっている部屋と自分達に洗浄魔法をかけて回復魔法を掛けようとした所でハッとする。
「あの……大変恐縮ではあるのですが……」
「あ? なんだ? 」
オリエンヌは極力彼の裸体に目を向けないように話しかけた。
「あなたの、お名前を……ちなみに、ハァ……私は……オリエンヌと申します……ハァ」
「……庸介だ、大林庸介 」
「庸介さん……」と、オリエンヌの形の良い小さな濡れた唇が己の名を紡いだだけで庸介は不覚にもキュンとしてしまった。
ソレを誤魔化すようにそっぽ向いてボソリと……
「オリエンヌ、か……」
「はうっ?! 」
と、呟いた所で何故かオリエンヌが何かに撃たれたかのように胸を庇って床に突っ伏した。
「っお、おい?! 大丈夫か……?! 」
庸介は未だに手足を何かに縛れた状態だと言うのに突然前のめりに伏せた聖女オリエンヌが心配になった。
「……って言うか、いい加減コレ取れ。襲ったりしねぇ……から、多分、大方……きっと……? 」
「………………」
別に襲われるのは今更やぶさかでもない、オリエンヌのアソコはもう既に庸介の形をしっかり覚えている。
突然獣のようになった庸介に襲いかかられても……
「くうううううっ!!」
「おい?! だからお前、あ……オリエンヌ?! どうしたよ?! 何か病気か?! 」
「い、いえ、ご心配頂かなくても……はい、ちょっと胸が苦しくなって息切れと動悸が激しくなる持病みたいなもんです……たまに涙もでます」
「いや?! 結構大ごとだったな?! 」
いや、ただの萌え発作である。
「お気になさらず……」そう言いながらオリエンヌは庸介の拘束魔法を取り払った。
庸介は腹筋だけで上体を起こすと、手首の調子を見るように 筋張ってゴツゴツした手首を振ってみたり、手を組んで指を鳴らしてみたり、首を鳴らしてみたり……してた所で再び聖女が前のめりに床に突っ伏した上にゴンゴン床に頭を打ち付けてるオリエンヌを見て思わずビクッと肩を跳ねさせた。
「おい? お前本当に大丈夫か……? 」
いえ、もう駄目かもしんない……聖女はそう言ってしまいたい気持ちをグッと堪えてくぐもった声で「大丈夫です……」と呟いた。
庸介は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらも「大丈夫は大丈夫なのか……?」なんて思いながらすっかり綺麗になった部屋と己の身体に感心しながら取り敢えずブツを仕舞った。
めくり上げられたTシャツを下ろし、ツナギに袖を通した……なんとなく。
まあ、ファスナーを上まで上げる気にはならなかったが……部屋の中で着込むようなものでもないと、そう思っただけだ。
「……すみません、体力が限界きてても『この状態』なので……回復魔法はもう少し待っていただいてもよろしいでしょうか……? 」
聖女の言葉に庸介は首を傾げる。
『この状態』とはなんだろうか……?何やら発作などと言うものが出ているのなら今すぐかけた方が良いのでは無いかと。
「いや……もう、本当に庸介さん……好みドンピシャ過ぎて……辛いんです……」
「……………………は? 」
庸介は一瞬何を言われたのかわからなかった。
好み……? 庸介が……? 庸介って誰だ…………あ?
「えっ?! 俺か?! 」
「…………はい、もう……なんですかその反応かっこ可愛い過ぎかよですよ、なんなんですか、私を萌え殺しにかかってるんですか……? 」
相変わらず突っ伏したままフルフルとその身を震わせて聖女が悪態をつく。
「ハアア……その鋭い瞳もオールバックの短い黒髪も最高にカッコいいです、ゴツゴツしたおでこも骨っぽい指先もおっきい手も、分厚い胸板に太くて逞しい二の腕と肩……背中にまで筋肉がしっかりついているのでしょうね?騎士団顔負けです、神殿騎士なんかお呼びじゃないです……何よりイク時の耐えるような顔がたまらなくセクシーでした、理解の及ばない事を言われた時のキョトンとした表情も最高に可愛いです、ああキスしたい、めちゃくちゃちゅっちゅしたい……乳首に吸い付きたい、むしろさっさと回復魔法をかけて再び致したい、今すぐ抱きたい、抱きつきたい、ギュってして欲しい、抱っこして欲しい、私を背中に乗っけて腕立てとかして欲しい……」
「いやちょ?!……な……は?!」
途中から我を忘れて欲望を垂れ流す聖女のセリフに庸介は口をパクパクとさせながら顔を真っ赤にした。
庸介は覚えている限り、人生でここまでダイレクトに女性から好意と欲望を向けられた事が無い。
だいたい怯えられるか、庸介が視線に気付いて振り向くたびに悲鳴をあげて逃げられるかだ。
……悲鳴を上げて逃げているのは自分のファンだったり自分を好きだったりするからだなどと考えが及ばないのが庸介の童貞クオリティである。
「私ばっかりこんなに好きでこの先大丈夫なんでしょうか……? せっかく落ち人様を戴いたのに、これではいつ愛想を尽かされるか……」
愛想をつかすとしたら別の理由である。
「いや、俺もお前の顔は好みだぞ……?」
「?!!?!!」
ボソリと遠慮気味につぶやかれたその声に、聖女は伏せていた頭を勢いよく振り向かせて庸介をガン見した。
「顔?! 顔ですか?! 」
「ぐ……あ、ああ、顔だ 」
この正直さも童貞クオリティだ「あと身体」と言わないだけ理性的で理知的である。
しかし庸介は目の前の残念聖女の性格も含めて好きだなどと言えなかった。
彼女の残念さもさる事ながら出会ってまだ数時間、嘘でも「性格が好き」だなとどと言う不誠実は働けなかった。
しかし、失礼千万ではある。セックスまでした上にあれだけ盛った相手に対して「顔だけ」と言ってのけたのだ。
庸介は気まずい気持ちで顔を背けようとしたが――
「いやっふぅー!! やったね!! 顔だけは綺麗に生まれて本当に良かったぁ!! お爺様ありがとう、さすが王族! 美形のサラブレッド!! 」
聖女はポジティブだった。
「は?! 王族?! 」
「はい! でも大丈夫ですよ! お爺様の代からウチは神殿籍なので王位継承権はありません! シレッと命は狙われたりしますけど! 私結構強いのでへっちゃらです! 」
どこから突っ込むべきかわからないが、庸介は聞き捨てならない一項目だけ聞き返す。
「……命を、狙われた……? 」
「はい、地元のレイアにいる時はそんな事無いんですけど、王都に行ったり他国に行くと唐突に刃物を持った人が泣きながら追いかけてきます 」
「……あ? 」
聖女オリエンヌは今まで体験した摩訶不思議な出来事を包み隠さず庸介に話して聞かせた。
曰く、子どもの頃にお呼ばれしたパーティでうたた寝してたら薄暗くてベッドしかない部屋で目が覚めて、主催の貴族が寝室を間違えたのか裸でオリエンヌの眠っていたベッドへ入って来ただとか。
曰く、王都の神事に向かっている途中で不衛生な男達に馬車が囲まれたので洗浄魔法をかけてやったら甚く感動されて次々にハグを求められたのだが、好みじゃなかったので全部避けて馬車を『引いて』走って王都へ向かっただとか。
曰く、隣国の街を散策していたら何故かいつのまにか道が変わって裏路地に迷い込んでしまったので屋根に登って戻っただとか。
曰く、出先でご飯を食べるといつも眠くなってしまうしい。
寝相が悪いのか身体にカーテンが巻き付いていたり、紐が巻きついていたりする上に知らない馬車や部屋で目覚めるから魔法でマップを開いてはトボトボと宿へ戻るだとか。
「そして、何故か決まってその後知らない人に追いかけ回されるのですよ」
「……………………」
全てはオリエンヌの美しさに目が眩んだ貴族であるとか、山賊であるとか、奴隷商人であるとかが背後にいるのだが。
「この国に来た時も何度かありましたけど、最近は無いですねぇ……? あ!庸介さんは大丈夫ですよ? 魔力定着が済めば地力がある分私よりきっと強くなれます! 少々物騒な世の中ですけれど怖がらないで下さいね、魔力定着が済むまでは私が守りますから! 」
「………………」
庸介は此処へ来る前に聞いた女神の話にそんなものがあった事を思い出していた。
この世界に来たらまず送られた先に居る聖女に即ハメして魔力回路を作り、約ひと月程セックスをしまくって魔力循環を頻繁に行って魔力定着を済ませろと。
魔力定着が済めば、ツガイと同じ魔法は大体使えるようになるから「俺強ぇ」出来るわよ!などと女神が言っていた気がする。
この目の前の聖女は危なっかし過ぎだ。
話を少し聞いただけの庸介ですら、彼女が命だけを狙われている訳では無いことくらい容易にわかった。
そして本人に危機意識が少なすぎると言うことも。
ならば、庸介のすべき事は一つだ。
「おい、オリエンヌ」
「えっ?! は……はい、庸介、さん……」
「ぐっ……」
名前を呼びかけ、呼んだだけでその綺麗な顔にほんのりと紅を差して恥ずかしそうに言うオリエンヌに庸介は身悶えそうになるのを必死で堪えた。
「その、魔力定着ってやつ即行で終わらせるぞ」
「――え? 」
どうやら現時点でオリエンヌは庸介よりもよっぽど強そうだ。簡単に庸介の自由を奪ったその手腕を彼は無かったことには出来ず、情けない気持ちになると同時に早くそんな力関係からは脱却したいと思った。
「お前よりも俺は強くなれんだな? だったらさっさと終わらせたい。終わったら――俺がお前を護れるようになるんだろ? 」
「っ――ぐふぅ?!!」
一瞬、オリエンヌは本気で血を吐いたかと思った。
ウチに暴れ回る萌の嵐を必死にやり過ごそうと床に突っ伏したままビクビクと痙攣しているオリエンヌを見て庸介は「本当に大丈夫か……? 」と真顔で問う。
やがて、オリエンヌはフーッフーッと不穏な呼吸音を鳴らしながらユラリと庸介に向き直った。
「理論上、魔力定着が倍の早さで完了するであろう方法が……あります! 」
庸介は「おおっ?!」と歓声を上げて、そんな都合の良い方法があるのかと明るい表情でオリエンヌに続きを聞こうとして――
「尻穴開発です!! 」
「」
激しく後悔した……。