異世界行ったらインキュバスさんと即えっち!32

「え……と、これは一体? 」

「優香の服だよ? 好みのものがあればいいんだけど 」

 優香が目覚めた時、身体はお風呂上がりのようにさっぱりとしていて、シーツも清潔なものに変えられており、一瞬今朝のことは全て夢だったとかと本気で優香は疑った。

 一瞬遅れてソレがラウロの洗浄魔法によるものだと気がついて、この世界での常識に馴染むまでどのくらいかかるだろうかと優香は遠い目をした。

 そうして、さて朝食を取ろうと暖炉のある部屋へ戻った優香を待ち受けていたのは、朝食と暖炉前のソファを埋め尽くすほどの────ゴスロリ服だった。

「無理です 」

「え? 」

 百歩譲って、この城の雰囲気や魔族の方々の着る服を見ていて「ゴシック系かな? 」とは思っていた。が、そこに「ロリ」が付くのは無理だ。優香は「ロリ」ではないので。

 必死でラウロにそんな説明をしてみたところ、その中でもデコルテの露出が少なく、可愛らしいリボンも無く、ロングスカートのゴシック服を見つけて……震えた。

 たしかに「ロリ」ではない、けれどもスカートは何層ものヒラヒラが付いていて、一歩踏み出すごとに風を感じそうだし何より重い。

 詰襟だしおっぱいはでないけれど、レースが惜しげもなく使われた豪華な作りを見た優香は別の意味で引いた。

「たっ……高……高そう…… 」

「大丈夫、タダだから 」

「はい? 」

 ニッコリ笑って言ったラウロに、そのボサボサの前髪の隙間から瞳を窺うようにして聞く優香。

「俺からのプレゼントだから優香はタダ 」

「………… 」

 それに対して「わぁいやった! 」と素直に喜べる性格だったら優香は今までセカンドヴァージンなんてやってなかっただろう。

 絶妙に困ったような悲しいような拗ねてるような、なんだか変な顔をしてラウロをジッと見上げた優香に、彼はクスリと微笑んでみせた。

「俺の子ども、産んでくれるっていったよね? 」

「?!!?!?!! 」

 突然、閨事の最中の会話を引っ張り出されて優香は真っ赤になって狼狽えた。

「優香は俺の可愛い奥さんになるんだよね? 」

「?!!?!!?! 」

 立て続けに言われた言葉にますます混乱する。

「だったら優香に必要な物を俺が買うのは、おかしくないよね? 」

「え、え? え……ええ?! 」

 そう言ったラウロが手に取ったのは、優香がまだこれならと思っていたロングスカートのゴシック服。

「着てくれるよね、俺の可愛いお嫁さん? 」

「ひょえぇぇええ?!?!! 」

 また、変な悲鳴が出た。

 ────────

 ────

「じゃあ、何かあったら直ぐに連絡してね! 」

「ありがとう茜ちゃん、行ってきます 」

 魔王城の地下はまるでアリの巣のようなんだとは茜の言、そんな入り組んだ地下の一室にそれはあった。

 ダンスホールのような円形の部屋を囲むようにして数十という数の扉がり、優香とラウロは魔王エルサリオンについてその一室へと連れてこられた。

 暗く狭いその部屋には大きな魔法陣だけが青白く光り輝き、エルサリオンの肩に乗っている茜がそれを魔法陣だと優香に教えてくれた。

「……優香、行く前に済ませておきたい。これを 」

 そう言ったエルサリオンがおもむろに優香に手渡したのは一枚の白いハンカチ。

(別れ間際に白いハンカチ……)

 なんとなく縁起が悪そうだなと、優香が思ったのと同時、ラウロが優香の腰を抱いた。

「え、え? ええ!? 」

 優香が戸惑うも、マイペース魔王エルサリオンは突然芝居がかった声音で優香に問う。

「『落ち人』佐々木優香──貴殿は、このアントワールに於いて、女神セリスの定めた運命のツガイ『ラウロ・アッカルド』を伴侶とする事に異無いか 」

「ふぁっ?! ぇ、あ……はいっ?! 」

 昨日の始祖襲来騒ぎの後から何となく親しみやすやを感じてしまっている魔王に、優香は思わず返事とも取れないテンションで返してしまった。

 が、マイペース魔王エルサリオンはそのままマイペースに芝居がかった「何か」をつづける。

 優香はキョロキョロとラウロと魔王を交互にみたが、なんかもう二人は様式美をそのままなぞるような雰囲気で事を進めていく。

「……──それでは、ツガイ『ラウロ・アッカルド』は『落ち人』佐々木優香へ誓いの口付けを」

「ひょっ?!え……ぁ……? 」

 一瞬──驚きとも期待とも取れる声をあげた優香に、けれどもラウロが口付けたのは彼女の額だった。

 口付けられた格好のまま固まった優香だったが、突如出現した眩い光の粒が彼女を取り囲んだところでおおいに狼狽た。

「ぇ、あ……?! ええ?! 」

 優香が手に持った白いハンカチが、ふわりと意思を持ったように動いて優香はそれに気を取られる。と、その変化の瞬間を目の当たりにした。

 ジワリジワリと、白い布が紫色に染め上げられていったのだ。

「えっ……なん?! え、なんで?! 」

「魔力色素定着、完了した 」

 手の中にあるその布の色は、とても美しくて。

 優香は思わずうっとりするような色だと思ったけれど、いかんせん一体いま、何が行われたのか謎である。

「ラウロの魔力の色を優香ちゃんに写したんだよ、優香ちゃんっていう落ち人のツガイはラウロだよって言う手続き? みたいな? マーキング? 」

「マーキング?!?!! 」

「うん、茜チャンちょっと黙って? 」

 茜はプニっとした肉球を自身の口元に押し当ててとりあえず黙った。