イスターレのお姫様

「ねえ、紗枝……レオンハルトほどの騎士ですもの、このままだと彼の元にも落ち人が遣わされてしまうわよね?! どうなのかしら紗枝、レオンハルトは落ち人様方の好みかしら?! 」

地球の日本からこの世界アントワールへ使わされ、このイスターレ国へ祝福の恩恵を授けているとされる『落ち人 』――有栖川紗枝は今、イスターレの姫に呼び出され登城していた。
紗枝はこの国の騎士団長、クリストハルト・バッハシュタインの妻である。

「レオンハルト様……ですか、夫クリストハルトとは従兄弟同士でしたね……? 」

「そう、そうなのよ!レオンハルトは『落ち人に愛されしバッハシュタイン 』の系譜なのよっ嗚呼! 女神セレスはなんて意地悪なのかしら―― 」

イスターレの姫は紗枝の胸へ泣きついた。

『落ち人 』とは、女神に愛されたアントワールの人間に遣わされる『運命の番 』である。
女神がもっとも相性が良いと判断した二人を引き合わせていると言われているのだ。
イスターレの中でもバッハシュタインは、適齢期の時に婚姻を結んでいなければ必ずと言っていいほど『落ち人 』が使わされたという名家である。

女神セレスから強い祝福受けている『落ち人』は、その存在だけで国を富ませると言われてきた。

『落ち人』の居る街は、災害知らず。

『落ち人』の居る領地は、飢餓知らず。

『落ち人』の居る国は――

土は肥え、太陽に愛され、恵の雨は優しく、精霊の祝福を得る。

故に、落ち人を頂く貴族の家はそれだけで発言力を持つようになる。このイスターレにおいて、たとえ公爵家であっても一辺境伯のバッハシュタインを無碍にはできない。そのバッハシュタインに使わされた落ち人である紗枝が、王族の姫に友人のような扱いを受けていても、表立って反対できるものもいないのだ。

「姫様はレオンハルト様を本当に愛しておられるのですね 」

「ええ、私にはレオンハルトだけ……子どもの頃からずっと彼と結婚する事だけを夢見て来たのに……いつまでたっても子ども扱いなのよ、不敬だわっ! 」

このアントワールという世界、基本的にどこも平和なのだが、平和な国にはより多くの落ち人が遣わされる。
平和に愛は欠かせないもの――恋愛結婚が女神セレスの意向だというのは誰もが知る常識で、王族にも恋愛結婚が許されることもあるのだ。
とても優しい世界、それがアントワールでる。
優しくない国に落ち人が来ないので。

「では、そんな姫様に私のとっておきを差し上げますね 」

にっこり笑って紗枝が取り出したソレは、一見してただの木の棒である。
姫様は首を傾げた。

「まあ……それはなんですの、紗枝……? 」

「初期設定としましては、この根本にレオンハルト様の魔力を込めていただいた魔石を押し当てます……すると、あら不思議 」

紗枝が次に取り出したのは、紗枝の夫クリストハルトの命令によってレオンハルトが魔力を込めた魔石だった。
その魔石が木の棒に充てられた次の瞬間、木の棒はにゅるにゅるとその姿を変え――

「レオンハルト様の御イチモツをかたどった梁型に大変身します 」

「ッきゃああああ?!!?! 」

梁型の出来上がりが己の視界に入らないように扇子で遮った紗枝に対し、姫は生まれて初めて勉学以外でそのブツを目にした。
顔を覆った両手の指の隙間から、ガン見である。

しかも、子どもの頃から恋し続けてきた相手の、見つめ続けて来たけれど見たこともなかったあの場所のアレ。

紗枝はこの世界に来て、己の相手が貴族とわかった時にはコレを考案していた。
そして、コレによって今イスターレ王国貴族令嬢達から彼女は絶大な支持を得ている。
この梁型は、いくら自由恋愛が認められる事があるとは言え、まだまだ婚約者を親に決められがちな令嬢達にとって、憧れの男性に自分を捧げるための神アイテムなのだ。

(れ、レオンハルト……澄ました顔をして、あんな物をもっているなんて…… )

そう言いながらも姫様は紗枝の手からそのブツを受け取った。

――――――――――――
【異世界人になんて渡さない!〜姫様は騎士の形で今宵もお楽しみ中〜】
落ち人に来られると困るなぁって思っている現地の方のお話です。
紗枝が暗躍してます。

次は……まさかまさかのあの人のあんな話

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